60歳以降も働いたら年金はどのくらい増える?
65歳以上の高齢者の就業者は2004年以降毎年増加しています。総務省統計局「労働力調査」(2021年)によると、2021年時点で912万人もいます。働く理由は人それぞれですが、今後65歳、70歳と、長い現役時代を送る方が増えていくでしょう。
60歳以降も厚生年金に加入して働くと、年金額を増やせます。今回は、60歳以降も働くことで増える年金額の一覧表を紹介します。あわせて、在職定時改定、在職老齢年金、繰り下げ受給など、もらえる年金額に関わる仕組みも解説しますので、ぜひ参考にしてください。
厚生年金は70歳まで加入できる
日本の公的年金には、国民年金と厚生年金の2つがあります。
国民年金は、20歳から60歳までのすべての人が加入する年金です。40年間にわたって所定の国民年金保険料を支払えば、誰もが満額の年金額をもられます。2023年度 (2023年4月〜2024年3月分)の国民年金の満額は67歳以下が月額6万6,250円(年額79万5,000円)、68歳以上が月額6万6,050円(年額79万2,600円)です。国民年金保険料を未納にしている期間があれば、その分年金額は減ります。
一方の厚生年金は、会社員や公務員が勤務先を通じて加入する年金です。会社員・公務員の方は、毎月の給料から国民年金・厚生年金の保険料を天引きで支払うことで、国民年金・厚生年金の両方から年金をもらうことができます。厚生年金の受給額は、加入期間中の給与や賞与の金額に、所定の乗数と加入期間の月数をかけて計算されます。ですから、給与や賞与の金額が多いほど、長く働いて加入期間を長くするほど年金額が多くなります。
国民年金には、原則として60歳までしか加入できません。国民年金保険料を未納にしている期間がある場合には、60歳〜65歳の間で国民年金の任意加入をすることで、未納の期間を減らし、年金額を増やすことができます。しかし、未納の期間がなければ(納付期間が480カ月に達していれば)、これ以上は国民年金に加入できません。
一方で、厚生年金には70歳まで加入できます。そのため、60歳以降も働くことで、厚生年金の金額を増やすことができる、というわけです。
「年度」と書いてあるものの読み手に伝わらないかもしれないので4月~のこととわかるような表記が良いと思う。
60歳以降働くと年金はこれだけ増える
では実際のところ、60歳以降も働くと年金はいくら増えるのでしょうか。早見表で確認してみましょう。
60歳以降も働いた場合の年金増加額早見表(年額)
厚生年金 加入年齢 |
60歳以降の年収 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
200万円 | 250万円 | 300万円 | 350万円 | 400万円 | 450万円 | 500万円 | |
61歳まで | 1.1万円 | 1.4万円 | 1.6万円 | 1.9万円 | 2.2万円 | 2.5万円 | 2.7万円 |
62歳まで | 2.2万円 | 2.7万円 | 3.3万円 | 3.8万円 | 4.4万円 | 4.9万円 | 5.5万円 |
63歳まで | 3.3万円 | 4.1万円 | 4.9万円 | 5.8万円 | 6.6万円 | 7.4万円 | 8.2万円 |
64歳まで | 4.4万円 | 5.5万円 | 6.6万円 | 7.7万円 | 8.8万円 | 9.9万円 | 11.0万円 |
65歳まで | 5.5万円 | 6.9万円 | 8.2万円 | 9.6万円 | 11.0万円 | 12.3万円 | 13.7万円 |
66歳まで | 6.6万円 | 8.2万円 | 9.9万円 | 11.5万円 | 13.2万円 | 14.8万円 | 16.4万円 |
67歳まで | 7.7万円 | 9.6万円 | 11.5万円 | 13.4万円 | 15.3万円 | 17.3万円 | 19.2万円 |
68歳まで | 8.8万円 | 11.0万円 | 13.2万円 | 15.3万円 | 17.5万円 | 19.7万円 | 21.9万円 |
69歳まで | 9.9万円 | 12.3万円 | 14.8万円 | 17.3万円 | 19.7万円 | 22.2万円 | 24.7万円 |
70歳まで | 11.0万円 | 13.7万円 | 16.4万円 | 19.2万円 | 21.9万円 | 24.7万円 | 27.4万円 |
(株)Money&You作成
早見表の縦軸は「いつまで働くか」の年齢、横軸は60歳以降の年収です。
たとえば、60歳から65歳まで年収300万円で働いた場合、60歳以降働かなかった場合と比べて、年額で約8.2万円年金が増えることを表します。月額に換算すると、毎月6,800円の増加です。
5年間にわたって国民年金保険料を支払って月額6,800円とは、少なく感じられるかもしれません。しかし、仮に65歳から85歳までの20年ずっともらい続けたら164万円、95歳までの30年なら246万円もの違いになるのですから、あなどれません。
65歳〜70歳まではもらえる年金が毎年増えるが注意点も
年金を受給しはじめるのは、原則として65歳からです。老齢厚生年金をもらいながら厚生年金に加入して働くと、もらえる老齢厚生年金の金額が毎年10月に増加します。これを「在職定時改定」といいます。
以前は、65歳以降働いて厚生年金保険料を納めても、その分が年金額に反映されるのは仕事を退職したあとか、70歳になってからでした。しかし、2022年4月から在職定時改定の制度が始まったおかげで、年金額が毎年増えるようになっています。
在職定時改定で増える年金額は、平均標準報酬月額(≒平均給与)20万円の方で年約1.3万円(年額)です。
ただし、給与が高い方は「在職老齢年金」による減額に注意が必要です。
在職老齢年金は、60歳以降も厚生年金に加入しながら働くときにもらえる年金。在職老齢年金でもらえる年金額は、月の年金額と給与(正確には、年金の基本月額と給与の総報酬月額相当額)の合計によって、減額されたり、全額支給停止されたりします。
具体的には、60歳以降の年金額(月額)と給与の合計が48万円(2023年度)を超えると、年金の一部がカットされます。具体的には、
(基本月額+総報酬月額相当額-48万円)×1/2
の金額がカットされます。
たとえば、65歳の人が月10万円の年金と42万円の給与をもらった場合は、「(10万円+42万円-48万円)×1/2=2万円」ですので、年金が2万円減額されます。さらにこの場合、給与が月58万円まで増えると年金は全額停止となります。年金をもらいながら厚生年金に加入する場合は、働き方を抑えたほうがいいでしょう。なお、国民年金は在職老齢年金の対象ではありません。
年金の繰り下げ受給も選びやすい!
60歳以降も働いて給与をもらっていれば、年金の繰り下げ受給も選びやすくなります。
年金は原則として65歳からもられますが、希望すれば60~75歳の間の好きなタイミングでもらいはじめることができます。60~64歳までに受給することを「繰り上げ受給」、66~75歳までに受給することを「繰り下げ受給」と呼びます。
年金の受給開始の時期は1カ月単位で選択できます。そして、いつからもらいはじめるかによって年金の金額(受給率)が変わります。
60歳〜64歳11カ月まで受給を早める繰り上げ受給では、1カ月早めるごとに0.4%ずつ受給率が減り、60歳まで年金の受給開始を早めると受給率は76%(24%減額)となります。対して、66歳〜75歳まで受給を遅らせる繰り下げ受給では、1カ月遅らせるごとに0.7%ずつ受給率が増え、75歳まで遅らせると受給率は184%(84%増額)になります。
繰り上げ受給・繰り下げ受給による年金の受給率の変化
0ヶ月 | 1ヶ月 | 2ヶ月 | 3ヶ月 | 4ヶ月 | 5ヶ月 | 6ヶ月 | 7ヶ月 | 8ヶ月 | 9ヶ月 | 10ヶ月 | 11ヶ月 | |||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
60歳 | 76 | 76.4 | 76.8 | 77.2 | 77.6 | 78 | 78.4 | 78.8 | 79.2 | 79.6 | 80 | 80.4 | 繰り上げ受給もらえる年金額が減る | |
61歳 | 80.8 | 81.2 | 81.6 | 82 | 82.4 | 82.8 | 83.2 | 83.6 | 84 | 84.4 | 84.8 | 85.2 | ||
62歳 | 85.6 | 86 | 86.4 | 86.8 | 87.2 | 87.6 | 88 | 88.4 | 88.8 | 89.2 | 89.6 | 90 | ||
63歳 | 90.4 | 90.8 | 91.2 | 91.6 | 92 | 92.4 | 92.8 | 93.2 | 93.6 | 94 | 94.4 | 94.8 | ||
64歳 | 95.2 | 95.6 | 96 | 96.4 | 96.8 | 97.2 | 97.6 | 98 | 98.4 | 98.8 | 99.2 | 99.6 | ||
65歳 | 100 | |||||||||||||
66歳 | 108.4 | 109.1 | 109.8 | 110.5 | 111.2 | 111.9 | 112.6 | 113.3 | 114 | 114.7 | 115.4 | 116.1 | 繰り下げ受給もらえる年金額が増える | |
67歳 | 116.8 | 117.5 | 118.2 | 118.9 | 119.6 | 120.3 | 121 | 121.7 | 122.4 | 123.1 | 123.8 | 124.5 | ||
68歳 | 125.2 | 125.9 | 126.6 | 127.3 | 128 | 128.7 | 129.4 | 130.1 | 130.8 | 131.5 | 132.2 | 132.9 | ||
69歳 | 133.6 | 134.3 | 135 | 135.7 | 136.4 | 137.1 | 137.8 | 138.5 | 139.2 | 139.9 | 140.6 | 141.3 | ||
70歳 | 142 | 142.7 | 143.4 | 144.1 | 144.8 | 145.5 | 146.2 | 146.9 | 147.6 | 148.3 | 149 | 149.7 | ||
71歳 | 150.4 | 151.1 | 151.8 | 152.5 | 153.2 | 153.9 | 154.6 | 155.3 | 156 | 156.7 | 157.4 | 158.1 | ||
72歳 | 158.8 | 159.5 | 160.2 | 160.9 | 161.6 | 162.3 | 163 | 163.7 | 164.4 | 165.1 | 165.8 | 166.5 | ||
73歳 | 167.2 | 167.9 | 168.6 | 169.3 | 170 | 170.7 | 171.4 | 172.1 | 172.8 | 173.5 | 174.2 | 174.9 | ||
74歳 | 175.6 | 176.3 | 177 | 177.7 | 178.4 | 179.1 | 179.8 | 180.5 | 181.2 | 181.9 | 182.6 | 183.3 | ||
75歳 | 184.0 |
(株)Money&You作成
たとえば、65歳時点の年金額が月15万円(年180万円)の人が60歳まで年金を繰り上げ受給すると、年金額は24%減って月11.4万円(年136.8万円)になってしまいます。反対に70歳まで年金を繰り下げたら、年金額は42%増えて月21.3万円(年255.6万円)、75歳まで繰り下げたら年金額は84%増えて月27.6万円(年331.2万円)に増える計算です。
年金の繰り下げを行っているときに不測の事態が起きて、まとまったお金が必要になった場合、それまでもらってこなかった年金を最大5年分さかのぼって一括で受給することできます。
たとえば、65歳以降年金を繰り下げている(繰り下げ待機している)ときに、68歳時点でまとまったお金が必要になった場合、65〜68歳までの3年分の年金を一括でもらえます。そして一括でもらったあとは、65歳時点の年金額が支給されます。
また、72歳時点で年金を一括でもらう場合、もらえるお金は最大で67〜72歳までの5年分です。以前は、その後もらえる年金額が「65歳時点の年金額」になってしまっていましたが、2023年4月からは「5年前みなし繰り下げ」(特例的な繰下げみなし増額制度)がスタート。これによって、65歳・66歳の間は繰り下げ受給をしていたとみなされるようになりました。つまり、一時金をもらった後の年金額が67歳時点のもの(16.8%増加した金額)になったのです。
5年前みなし繰り下げによって、最大5年分の年金を一括でもらう際のデメリットが少なくなりました。年金の繰り下げ受給はあらかじめいつまでと決めておく必要はありません。繰り下げ待機をして年金額を増やしておいて、とくに何もなければ繰り下げを続け、もしものときには一括でもらうようにするとよいでしょう。
まとめ
厚生年金は70歳まで加入できること、厚生年金に加入しながら働くことで老後の老齢厚生年金が増えることを紹介しました。60歳以降も働くことで増える年金額は働く年数や年収によっても変わりますが、老齢厚生年金が増やせるという点は同じです。
働くことによって給与があれば、年金の繰り下げ受給も選びやすくなります。生涯にわたってもらえる年金を少しでも多くするためにも、60歳以降も積極的に働くのがよいでしょう。
頼藤 太希(よりふじ たいき)
マネーコンサルタント
(株)Money&You代表取締役。中央大学商学部客員講師。慶應義塾大学経済学部卒業後、外資系生命保険会社にて資産運用リスク管理業務に従事。2015年に現会社を創業し現職へ。ニュースメディア「Mocha(モカ)」、YouTube「Money&YouTV」、Podcast「マネラジ。」、Voicy「1日5分でお金持ちラジオ」、書籍、講演などを通じて鮮度の高いお金の情報を日々発信している。『はじめての新NISA&iDeCo』(成美堂出版)、『定年後ずっと困らないお金の話』(大和書房)、『マンガと図解 はじめての資産運用 新NISA対応改訂版』(宝島社)など書籍90冊、著書累計160万部超。日本証券アナリスト協会検定会員。宅地建物取引士。ファイナンシャルプランナー(AFP)。日本アクチュアリー会研究会員。