
【2022年10月から】社会保険適用拡大「106万の壁」はどうなる?
社会保険に加入するメリットは
会社で働く人が加入する健康保険や厚生年金といった社会保険。法律改正によって、これまでは社会保険に加入しなくてもよかったパート・アルバイトの方でも、社会保険に加入しなければならないケースが出てきています。そこで気になるのが、配偶者の扶養内で働く目安となる「106万円の壁」「130万円の壁」ではないでしょうか。今回は、社会保険適用拡大の概要、社会保険に加入しても手取りを増やさずに済む年数、そして社会保険加入のメリットまでご紹介します。
社会保険の適用条件が変わった
会社などに雇用されている人のうち、正社員や、労働時間が正社員の4分の3以上(おおむね週30時間以上)のパート・アルバイトの方は社会保険に加入します。また、それ以外の方でも、年収が130万円を超えた場合は、配偶者の扶養から外れることになり、自分で社会保険に加入します。
また、2016年以降は「106万円の壁」が誕生。年収が130万円に届かなくても、以下の条件をすべて満たすと、社会保険に加入する必要がでてきたのです。
- ・事業所の規模(従業員数)が500人超
- ・週の所定労働時間が20時間以上
- ・月額賃金8万8,000円以上(年収換算で約106万円以上)
- ・継続して1年以上雇用される見込み
- ・学生でない
簡単にまとめると、
- ・パート・アルバイトでも、年収が106万円または130万円を超えた場合は、社会保険に加入する必要がある
- ・106万円を超えた場合、社会保険に加入する必要があるのは一部の人のみ
- ・130万円を超えた場合、社会保険に全員加入する
となります。
社会保険に加入するということは、社会保険料を自分で負担するということです。社会保険料の支払いが増えれば、その分手取りが減ってしまいます。そのため、壁を超えないように働き方を調整している人も少なくないでしょう。
しかし、2022年10月にこの社会保険の適用条件が変更。さらに2024年10月にも変更が予定されています。
社会保険の適用条件
(株)Money&You作成
2022年10月からは、
- ・従業員数の条件が「500人超」から「100人超」
- ・勤務期間の条件が「1年以上」から「2カ月超」
に変更されました。
また、2024年10月からは、
・従業員数の条件が「100人超」から「50人超」
に変更される予定です。
たとえば、これまで年106万円以上稼いでいたものの「従業員数が500人いないから」と社会保険に加入せず、扶養内で働いていた人も、会社の従業員数によっては社会保険に加入しなければならない、というわけです。
報道によると、政府は今後さらに従業員数の条件の撤廃も検討しているとのこと。もしも撤廃されれば、さらに多くのパート・アルバイトの方が社会保険に加入しなくてはならなくなります。
健康社会保険に加入しても手取りを減らさずに済む年収は?
社会保険に加入すると、その分手取りは減ってしまいます。手取りを維持するには、年収を上げなくてはなりません。106万円・130万円の手取りを維持するために必要な年収を計算すると、おおよそ次のようになります。
年収と税金合計・社会保険料合計・手取りの概算
健康保険料率は東京都の協会けんぽ40歳未満(9.81%)・雇用保険料率は一般事業者(5/1000)で計算
(株)Money&You作成
上記は概算の金額ですが、それでも社会保険料の金額は大きいことがお分かりいただけるでしょう。年収106万円で社会保険に加入すると、社会保険料が15万円以上引かれてしまい、手取りは90万円ほどになってしまうのです。
社会保険加入前に年収106万円だった人が社会保険加入後も同程度の手取りを維持するには、年収を130万円近くまで増やす必要があります。
同様に、社会保険加入前に年収130万円だった人は、年収を160万円近くまで増やしてはじめて手取りが130万円ほどになる計算なのです。
社会保険への加入のメリットは?
このようにみると、「社会保険には入りたくない」「やっぱり扶養の範囲で働こう」と考える方もいるでしょう。しかし、社会保険に加入することは、悪いことばかりではありません。社会保険の加入には、次のようなメリットもあります。
社会保険加入のメリット①:将来もらえる年金が増える
厚生年金に加入すると、国民年金からもらえる老齢基礎年金だけでなく、厚生年金からも老齢厚生年金がもらえます。厚生年金では、基本的に加入期間が長いほど、保険料をたくさん納めるほど上乗せされる年金の額も増えます。
社会保険加入のメリット②:障害年金ももらえる
もしも、病気やけがにより障害状態と認定された場合、障害基礎年金のほかに障害厚生年金ももらえます。障害年金は、万が一の際に生活を維持していくための大きな助けとなるでしょう。
社会保険加入のメリット③:遺族年金ももらえる
もしも加入者が亡くなった場合、遺族に遺族基礎年金のほかに遺族厚生年金がもらえます。遺族基礎年金は原則として18歳未満の子どもがいる遺族(または18歳未満の子どもしかもらえませんが、遺族厚生年金は子どもの有無にかかわらず、遺族の優先順位(妻→子→夫→父母→孫→祖父母など)の高い人がもらえます(一部年齢制限あり)。
社会保険加入のメリット④:傷病手当金や出産手当金がもらえる
加入者が、病気やけが、出産などで仕事を休まなければならない場合、傷病手当金や出産手当金をもらうことができます。傷病手当金・出産手当金は、賃金のおおむね3分の2の金額です。傷病手当金や出産手当金は、一定期間仕事ができないときの安心につながります。
社会保険加入のメリット⑤:会社が保険料の半額を支払ってくれる
健康保険料や厚生年金保険料といった社会保険料は、会社と従業員で折半して支払っています。会社が自分の保険料を半分肩代わりしてくれるのはありがたいですね。
社会保険の適用拡大によって、社会保険に加入しなければならない人が段階的に増えています。社会保険料の負担は決して軽くはありませんが、手取りが減るデメリットだけでなく、老後にもらえる年金の額が増えたり、休職・退職時に手厚い保障を受けられたりするなどのメリットもあります。今後社会保険加入の対象になるかもしれないという方は、仕事を増やして手取りを維持するのもひとつの方法でしょう。自分の働き方を考えるきっかけにしてみてくださいね。

高山 一恵(たかやま かずえ)
Money&You 取締役/ファイナンシャルプランナー
慶應義塾大学卒業。2005年に女性向けFPオフィス、(株)エフピーウーマンを設⽴。10年間取締役を務めたのち、現職へ。全国で講演活動、多くのメディアで執筆活動、相談業務を⾏ない、女性の人生に不可欠なお金の知識を伝えている。明るく親しみやすい性格を活かした解説や講演には定評がある。著書は『はじめての資産運用』(宝島社)、『はじめてのNISA&iDeCo』(成美堂)、『税制優遇のおいしいいただき方』(きんざい)など多数。ファイナンシャルプランナー(CFP®)。1級FP技能士。