
失業・離職・再就職したときに公的保険から受け取れる給付
雇用保険は、会社などに雇われている労働者が加入している公的保険です。雇用保険では、労働者が失業・離職・再就職するときなどに、さまざまな給付が受け取れます。今回は、失業・離職・再就職したときに雇用保険から受け取れる給付をご紹介。自分が失業・離職・再就職する際に受け取れる給付、いざというときにフル活用しましょう!
働く人が加入する雇用保険
雇用保険は、労働者が失業した場合などに必要な給付を行って、労働者の生活や雇用の安定を図る制度です。
現状は働いて生活するだけの収入があっても、失業・離職となれば収入が途絶えてしまいます。生活が立ちいかなくなってしまう人もいるでしょう。また、失業者が新しい仕事を探し、再就職する求職活動にもお金がかかりますし、何よりその間の生活費もかかります。
雇用保険は、このような失業・離職・再就職などの際に労働者をサポートし、生活と雇用を安定さる役割を担っています。
雇用保険に加入する労働者は、
①労働時間が週20時間以上
②31日以上雇用される見込み
③学生ではない(例外あり)
のすべての条件を満たす人です。正社員・パート・アルバイト・派遣など、雇用形態にかかわらず、条件を満たす人はすべて加入します。また、会社(事業主)は、1人でも条件を満たす労働者を雇っているならば、雇用保険に加入させる義務があります。
失業手当、どのくらいもらえる?
雇用保険と聞いて、多くの方が連想するのは失業手当(基本手当)でしょう。
失業手当は、会社をやめた人が失業中の生活を心配せずに次の就職先を探し、1日も早く再就職してもらうように支給される給付。失業手当でもらえる金額は人により異なりますが、失業中の生活をサポートしてくれる心強い給付であることには変わりありません。
失業手当の対象となる人は?
失業手当をもらう条件①:「失業の状態」にある人
失業手当は、いつでも働けて、求職活動をしているにもかかわらず就職できない、という人(「失業の状態」にある人)が受け取れます。失業手当は「再就職してもらう」ための給付なのです。
したがって、たとえば
- ・病気やケガで、すぐには就職できない
- ・妊娠・出産・育児があってすぐには就職できない
- ・定年などで退職して、しばらく休養してから就職する
- ・結婚などで家事に専念してから就職する
といった事情のある人は、失業手当をもらえません。
失業手当をもらうには、ハローワークで求職の申し込みをする必要があります。また、求職活動を行いつつ、原則4週間に1度ハローワークに足を運び「失業の認定」を受ける必要があります。
失業手当をもらう条件②:一定期間以上雇用保険に加入している人
失業手当をもらうには、退職前に一定期間以上雇用保険に加入していることも必要です。失業手当をもらうのに必要な加入期間は、仕事をやめた理由によって異なります。
・一般離職者(自己都合):
退職前2年間に雇用保険の加入期間(被保険者期間)が12カ月以上あること
・特定受給資格者・特定理由離職者:
退職前1年間に雇用保険の加入期間が6カ月以上あること
一般離職者よりも、特定受給資格者・特定理由離職者のほうが条件が軽くなっています。
一般離職者は、正当な理由なく自分の都合で仕事をやめた場合を指します。それに対して、特定受給資格者は「会社が倒産した」「リストラに遭った」など、会社都合の理由で仕事をやめた場合です。また、特定理由離職者は「妊娠・出産した」「親族の看護が必要になった」など、正当な理由のある自己都合で仕事をやめた場合を指します。やむを得ない理由のある失業・離職のほうが、給付が手厚くなっています。
失業手当でもらえる金額は?
失業手当でもらえる金額は、退職前6カ月の賃金合計を180で割った「賃金日額」に、所定の給付率をかけた金額(基本手当の日額)です。
【基本手当日額の計算方法(2022年8月1日〜)】

厚生労働省「雇用保険の基本手当日額が変更になります〜令和4年8月1日から〜」より
賃金日額には、残業代や通勤手当は含みますが、ボーナスは含みません。賃金日額が5,030円未満の場合は80%、12,380円超(離職時の年齢が60〜64歳の場合は11,120円超)の場合は50%(45%)をかけた金額が基本手当日額になります。
また、賃金日額が5,030円以上12,380円以下(11,120円以下)の場合は、計算式(上の表の下部に表示)に当てはめて基本手当日額を算出します。たとえば、退職前6か月の賃金合計が180万円(賃金日額1万円)の60歳未満の方の場合、基本手当日額は5,971円となります。
失業手当でもらえる金額の合計は、この基本手当日額に給付日数をかけた金額です。
失業手当の給付日数は原則90日〜330日。給付日数は、仕事をやめた理由・年齢・雇用保険の加入期間によって変わります。
【失業手当の給付日数】
〇一般退職者
雇用保険の加入期間 | |||||
---|---|---|---|---|---|
年齢 | 1年未満 | 1年以上5年未満 | 5年以上10年未満 | 10年以上20年未満 | 20年以上 |
全年齢 | - | 90日 | 90日 | 120日 | 150日 |
〇特定受給資格者・特定理由離職者
雇用保険の加入期間 | |||||
---|---|---|---|---|---|
年齢 | 1年未満 | 1年以上5年未満 | 5年以上10年未満 | 10年以上20年未満 | 20年以上 |
30歳未満 | 90日 | 90日 | 120日 | 180日 | - |
30歳以上35歳未満 | 120日 | 180日 | 210日 | 240日 | |
35歳以上45歳未満 | 150日 | 180日 | 240日 | 270日 | |
45歳以上60歳未満 | 180日 | 240日 | 270日 | 330日 | |
60歳以上65歳未満 | 150日 | 180日 | 210日 | 240日 |
(株)Money&You作成
たとえば、先に紹介した基本手当日額が5,971円の方が一般退職者で、雇用保険に10年加入していた場合、失業手当の総額は5,971円×120日=71万6,520円となります。
なお、一般退職者と特定受給資格者・特定理由離職者では、失業手当の給付がはじまるまでの期間が異なります。どちらの場合も、ハローワークで申請をしてから7日間の待機期間があるのは同じです。しかし、特定受給資格者・特定理由離職者の場合はその後すぐに給付の対象になるのに対し、一般退職者はさらに2カ月の「給付制限期間」を経てから給付の対象になります。この間は失業手当を受け取れない点は注意が必要です。
失業手当以外にもあるさまざまな給付
雇用保険の給付には、大きく分けて求職者給付・就職促進給付・教育訓練給付・雇用継続給付の4つがあります。ここまでお話しした失業手当は、求職者給付のひとつです。雇用保険からは、失業手当の他にもさまざまな給付が受けられます。その主なものを紹介します。
雇用保険の給付1:求職者給付
求職者給付は、退職した後、求職活動をする人の生活の保障や活動支援のために行われる給付です。失業手当の他にも、次のようなものがあります。
技能習得手当
公共職業訓練等を受講する場合にもらえる手当です。受講手当、通所手当の2つが支給されます。受講手当は日額500円(上限2万円)、通所手当は月額最高4万2,500円となっています。技能習得手当は、失業手当とは別にもらえます。
寄宿手当
公共職業訓練のために家族と別居して寄宿する場合にもらえる手当です。寄宿手当の月額は1万700円です。
傷病手当
退職後、病気やケガのために15日以上就職できない場合、失業手当の代わりに支給される手当です。傷病手当の日額は失業手当の日額と同じです。
高年齢求職者給付金
65歳以上の人が失業した場合にもらえる給付。賃金日額の50%〜80%が30日または50日分受け取れます。高年齢求職者給付金は64歳までの失業手当に代わる、いわば「65歳以上の失業手当」ですが、失業手当よりも給付日数が少ないので、失業手当よりももらえる金額が少なくなるケースが多くあります。
雇用保険の給付2:就職促進給付
就職促進給付は、失業・離職した人が再就職することを援助する給付です。
再就職手当
失業手当を受け取れる人が早期に再就職した場合にもらえる手当です。失業手当の支給残日数が所定給付日数の3分の1以上ある場合は基本手当日額の60%、3分の2以上ある場合は70%の金額が支給残日数分受け取れます。
就業促進定着手当
再就職手当の受給者が、退職前よりも低い賃金で6カ月以上雇用される場合にもらえます。就業促進定着手当の金額の上限は、失業手当の支給残日数の40%です。
就業手当
失業手当の受給資格者が、再就職手当の対象にならない形態で就業した場合にもらえる手当です。たとえば、契約期間が1年未満の非正規雇用で就職した場合は、再就職手当の対象にはなりませんが、就業手当の対象になります。
就業手当は、失業手当の支給残日数が所定給付日数の3分の1以上、かつ45日以上あるときに、失業手当の30%×就業日数分もらえます。
常用就職支度手当
障害があるなど、就職が困難な方が、安定した職業に就職したときにもらえる手当です。常用就職支度手当の金額は、失業手当の支給残日数に応じて異なります。
雇用保険の給付3:教育訓練給付
教育訓練給付は、働く人の資格取得やスキルアップを支援する給付です。在職中の人や退職した人が、厚生労働大臣指定の教育訓練講座を受講・修了すると、受講費用の一部が支給されます。支給額は、教育訓練講座の内容・レベルに応じて3種類あります。
専門実践教育訓練
受講費用の50%(年間上限40万円)が受講中6カ月ごとに支給されます。
また、資格を取得し、訓練修了後1年以内に雇用保険の被保険者として雇用された場合は、受講費用の20%(年間上限16万円)を追加で受け取れます。
特定一般教育訓練
受講費用の40%(上限20万円)が受講終了後に支給されます。
一般教育訓練
受講費用の20%が(上限10万円)が受講終了後に支給されます。
雇用保険の給付4:雇用継続給付
雇用継続給付は、高齢者が再雇用され賃金が減った場合や、育児・介護等で休業する場合にもらえる給付です。
高年齢雇用継続給付
60歳以降に継続雇用や再雇用され、賃金が低下した人がもらえる給付です。高年齢雇用継続基本給付金と高年齢再就職給付金の2種類があります。いずれも、60歳以降の給料が60歳時点の75%未満になったときに、最大で15%の給付金がもらえます。
育児休業給付
育児休業中、賃金が支払われない場合などに、原則として子どもが1歳になるまでもらえる給付です。父母とも育休を取得する場合には1歳2カ月まで、保育所に入れないなどの事情がある場合には最長で2歳まで支給を受けられます。育休開始から180日間は賃金日額の67%、181日目以降は賃金日額の50%がもらえます。
介護休業給付
家族の介護のために休業した人がもらえる給付です。休業前の賃金の67%が原則30日支給されます。
まとめ
雇用保険には、失業中の生活をカバーする失業手当はもちろん、失業・離職・再就職にかかわるさまざまな給付があることを紹介しました。雇用保険に加入している以上、雇用保険の手厚い補償を使わないのはもったいないですね。自分でも利用できる雇用保険の給付を探して、ぜひ活用していきましょう。

高山 一恵(たかやま かずえ)
Money&You 取締役/ファイナンシャルプランナー
慶應義塾大学卒業。2005年に女性向けFPオフィス、(株)エフピーウーマンを設⽴。10年間取締役を務めたのち、現職へ。全国で講演活動、多くのメディアで執筆活動、相談業務を⾏ない、女性の人生に不可欠なお金の知識を伝えている。明るく親しみやすい性格を活かした解説や講演には定評がある。著書は『はじめての資産運用』(宝島社)、『はじめてのNISA&iDeCo』(成美堂)、『税制優遇のおいしいいただき方』(きんざい)など多数。ファイナンシャルプランナー(CFP®)。1級FP技能士。