
生命保険に加入したほうがいいのはいつ?
どんなタイミングがいい?
生命保険はケガや病気、さらには死亡といった万が一のことに備えることのできる商品です。でも、これまで生命保険についてよく考えてこなかったという方や、人から勧められてなんとなく加入している方もいます。
実際のところ、生命保険に加入したほうがいいのはいつなのでしょうか。20代・30代の方が生命保険に加入するタイミングを考えてみましょう。
【大前提】若いうち・健康なうちに生命保険に加入すると生命保険料は安くなる
一般的に20代から30代の若いうちに生命保険に加入しておくと、年齢を重ねてから加入するよりも生命保険料が安く済みます。
生命保険会社は、生命保険料を算出する際に「予定死亡率」という比率を参考にします。予定死亡率は、生命保険の契約期間に亡くなる人がどのくらいいるかを、過去の統計から予測した割合のことです。
予定死亡率は通常、若いほど低くなります。ですから、20代・30代の若いうちのほうが、生命保険料が安くなるのです(なお、生命保険料は予定死亡率のほかに、運用で得られる利益を見込んだ「予定利率」や、生命保険を運営するために必要な費用を見込んだ「予定事業費率」も考慮して決まります)。
また、20代・30代ならまだ病気やケガも少なく、健康な方が多いことでしょう。
生命保険に加入する際には「告知」を行います。告知とは、今の健康状態や過去の病気の履歴などを保険会社に正しく伝えることです。健康状態に問題のない人と、過去に特定の病気にかかったことのある人では、過去に病気にかかった人のほうが、将来生命保険の保険金を支払う可能性が高いため、生命保険料が高くなったり、あるいは生命保険に加入できなかったりすることがあります。
病気やケガをする前ならば、希望の生命保険に安く入れる可能性が高いということです。
生命保険は「もしものときにお金で困ること」に備えるもの
もっとも、生命保険は本来、人に勧められたから加入するものでも、20代・30代になったから加入するものでもありません。
生命保険は、もしものときにお金で困ることに備えるためのものです。このことを忘れると、よけいな生命保険に加入してしまう可能性があります。
たとえば20代独身で、就職したての人がいるとします。仮に、この人に万が一のことが起こったとき、両親や友人たちは悲しむでしょうが、家族も子どももいませんので、「お金で困る」人はいませんね。ですから、この人には少なくとも死亡保障はいらない、と考えられます。
また、病気やケガをしてしまった、働けなくなったという場合も、貯蓄で対処できるならば、必ずしも生命保険でお金を用意する必要はありません。目安としては生活費の6カ月分、できれば1年分貯蓄していれば、たとえ収入が途絶えるようなことがあっても、対処できるでしょう。
さらに、貯蓄のほかに公的保険があることも忘れてはいけません。日本は「国民皆保険」。会社員や公務員とその扶養家族であれば健康保険、個人事業主やフリーランスなどであれば国民健康保険に加入しています。
公的保険があるから、医療機関で保険証を見せると医療費の負担が原則3割になります。また、手術や入院でひと月にたくさんの医療費がかかったときも、高額療養費制度によって、自己負担限度額を超えた金額が払い戻されます。ほかにもさまざまな給付金が用意されています。公的保険は、意外と充実しているのです。
しかし、貯蓄や公的保険を利用してもお金が足りない場合、万が一のことがあったら、生活に困ってしまいます。
この足りない部分を、生命保険でカバーすることを考えていくのです。
ライフスタイルが変化したタイミングで生命保険への加入を検討しよう
生命保険に加入すべきタイミングは、ライフスタイルが変わったときです。
人生の転機となるライフイベントが起きると、それまでの生活が変わってきます。すると、自分に万が一のことがあったり、病気やケガで働けなくなったりした場合に「お金で困る」人が出てくる可能性があります。ですから、ライフスタイルが変化したら、生命保険の加入を検討しましょう。
20代〜30代の方が生命保険への加入を考えるタイミングには、次のようなものがあります。
就職したタイミング
「学生のうちは親が生命保険に入ってくれていた」という方もいるでしょう。でも、社会人となったら立派な大人です。独り立ちを機に、どんな生命保険が必要か検討しましょう。独身なら死亡保障は不要でも、病気やケガで働けなくなる可能性はあります。万が一のときの多くの費用がかかる事態にだけ、生命保険の加入を検討します。
結婚したタイミング
結婚すると、配偶者と2人で家計を運営することになります。共働きの場合は比較的家計に余裕があるとはいえ、万が一のことがあった場合に相手の収入だけで生活費と入院費などをカバーするのは大変です。配偶者がパート・アルバイトなどで収入が少ない場合や、働いていない場合などはなおさら。生命保険での死亡保障や入院保障を考えましょう。
子どもが誕生したタイミング
子どもが生まれたタイミングが、もっとも手厚い保障を考えたいタイミングです。家族が増えれば単純に生活費は増えますし、子どもが無事大人になるまでにかかる教育費も必要だからです。
文部科学省の調査によると、幼稚園から高校までの15年間の学習費は、すべて公立だと541万円、私立だと1,830万円。加えて4年間の大学の費用は国立大で約242万円、私立文系で約400万円、私立理系で約543万円にものぼります。これだけの金額が人数分必要になります。
自分に万が一のことがあっても、家族が生活できるのはもちろん、子どもが進路を諦めることがないようにするためにも、生命保険が必要です。
20代・30代におすすめの生命保険は?
生命保険文化センターの調査によると、直近に加入した生命保険の加入理由は「医療費や入院費のため」「万一のときの家族の生活保障のため」の2つが圧倒的に多くなっています。
【生命保険の加入の理由】
(複数回答・%)
医療費や入院費のため | 57.1 |
---|---|
万一のときの家族の生活保障のため | 49.5 |
万一のときの葬式代のため | 15.4 |
老後の生活資金のため | 10.8 |
貯蓄のため | 8.6 |
災害、交通事故などにそなえて | 8.3 |
子どもの教育、結婚式金のため | 7.4 |
介護費用のため | 3.8 |
相続および相続税の支払を考えて | 2.8 |
財産づくりのため | 2.4 |
万一のときのローン等の返済のため | 2.1 |
税金が安くなるので | 1.7 |
土地、家屋の取得、増改築のため | 0.1 |
その他 | 1.3 |
不明 | 0.4 |
生命保険文化センター「生命保険に関する全国実態調査」(平成30年度)より作成
このうち、医療費や入院費をサポートする医療保険は、貯蓄や公的保険の制度を活用してもお金が不足するという事態だけ検討すればいいでしょう。
その代表は、がん保険です。がん保険とは、がんと診断されたときに保障が受けられる生命保険のことです。
近年、がんの治療は進歩していて、入院や手術などの日数は少なくなっています。しかし、その後の通院などで働けない期間が長くなれば、その間の生活費を補う必要が出てきます。
また、がんの治療に効果があるとされる「素粒子線治療」や「陽子線治療」といった先進医療は、公的保険制度の対象外です。
がん保険を利用すれば、多くの場合がんと診断されたときに診断給付金(一時金)が受け取れるほか、先進医療など、所定の治療を受ける場合にもサポートが受けられます。
また、結婚した・子どもが生まれた場合の家族の生活保障ができる生命保険には、死亡保険や収入保障保険があります。死亡保険は、加入者が亡くなったときに遺族が保険金を受け取れる生命保険です。収入保障保険は、同じく加入者が亡くなったとき、給料のように保険金が一定額ずつ受け取れる生命保険です。
ただこの場合も、すべてを保険で用意するのではなく、あくまで貯蓄と公的保険制度を活用することが前提です。それでも不足する金額を補うようにすれば、生命保険料を抑えつつ必要な保障を用意できます。

高山 一恵(たかやま かずえ)
Money&You 取締役/ファイナンシャルプランナー
慶應義塾大学卒業。2005年に女性向けFPオフィス、(株)エフピーウーマンを設⽴。10年間取締役を務めたのち、現職へ。全国で講演活動、多くのメディアで執筆活動、相談業務を⾏ない、女性の人生に不可欠なお金の知識を伝えている。明るく親しみやすい性格を活かした解説や講演には定評がある。著書は『はじめての資産運用』(宝島社)、『はじめてのNISA&iDeCo』(成美堂)、『税制優遇のおいしいいただき方』(きんざい)など多数。ファイナンシャルプランナー(CFP®)。1級FP技能士。